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つい先日あまりにも釣れないので、近くの岩場でワカメを採っていたら足を滑らせてコケた。堤防の釣りだったのでスパイクを履いていなかったのだ。ぶつけた腰を摩りながらふと悲しい事件を思い出した。
数年前のことだが南薩の方でキス釣りをしていたときのこと、後でブルブルブルと車の止まる音がした。何気なく振り向くと軽トラの後ろに犬を乗せた60歳台くらいのおじさんだ。おじさんは犬を連れ海岸の方へ歩いていく。そういえば15メートル位先に竿が置いてあった。置き竿にしたままだったので、持ち主はどこに行ったのだろうと思っていたのだった。どうやらイカの生餌釣りらしい。
海岸は階段状にコンクリートが打ってあり、引き潮だったため波打ち際は滑りやすくなっていた。おじさんは、やおら竿を持ち上げ「おっ、かかっちょ、かかっちょ」とリールを巻き始めた。嬉しそうにリールを巻くおじさんを見て犬も嬉しくなったのだろう。「ハッハッハッ」と興奮気味に息を吐きながらおじさんの周りを走り回っている。
そのときだ、本日1つ目の災難…。犬が足を滑らせ海に落っこちた! 波打ち際のコンクリートに這い上がろうとするが、滑ってうまくいかない。「何をしちょっとよ!こん馬鹿イン(犬)が」と言いながらおじさんはイカの掛かった竿を持ったまま犬の首輪を掴み、引っ張り上げようとするがなかなかうまく行かない。「リン、早よ上がらんか、上がらんか!」犬の名はリンというらしい。やっと這い上がってきたリンは塗れた体を震わせて水を弾き飛ばす。「リン!こら水がひっかかっどが!」と怒るおじさん。
そのとき2つめの災難が…。水がかかるのを避けようとした瞬間、今度はおじさんが足を滑らせすっこけた。竿を放り上げながら後にひっくり返ったおじさんは後頭部をコンクリートにしたたか打ち付けた。15メートル位離れているのに「ゴン」と音が聞こえた。これには私もビックリして思わず駆けつけようとしたが、おじさんは「あいた〜」と言いながらすぐに立ち上がったので、心配ながらも、浮かした腰を下ろした。
おじさんはすぐに竿を持ち直した。イカはまだ掛かっているようだ。イカはかなり大きいらしく竿は大きく弓なりに曲がっている。ようやく足下まで引き寄せてきたイカは遠目に見てもかなり大きい。さあ、いよいよ取り込みだ。
と思った瞬間本日3つ目の災難…。パキッという乾いた音とともに竿がポッキリ折れた。万事休すと思われたが、イカはまだかかったままだ。おじさんは「おまえのお陰で、リンは海に落ちるし、オイはビンタをうっがったが。竿まで折っせ〜」とイカに悪態をつきながら今度は道糸を手繰り始めた。
「がんばれ、おじさん!」。リンはまた嬉しそうにおじさんの周りをワンワン吼えながら走り回っている。「いろいろあったけど良かったね、おじさん」。できればここでハッピーエンドといきたい、そう信じたかった…。
がしかしここで我が目を疑う本日4つめの災難…。イカがバレた…。遠目に見てもかなり大きいイカは墨を吐きながら沖の方に逃げ帰っていった。
あんまりだ、リンは海に落ち、おじさんはひっくり返り後頭部を痛打。おまけに竿は折れてしまった。それなのに寸でのところでイカは逃げてしまったのだ。おじさんが登場してほんの十数分の間に起こったあまりにも悲しい出来事。
「おまえが海に落ちたいすっでよ!」とリンに八つ当たりをしながら帰っていくおじさん。
その日の夕焼けはいつになく物悲しく目に焼きついた。みなさんも気をつけて…。
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